ケンブリッジの我が家とケム川の間に Midsummer Common という広い原っぱがある。 Common とは「囲いのない草地」という意味で,地名によく使われる単語だそうである。よくわからなかったのは Midsummer のほうで,これは「真夏」を意味する。日本で真夏というと,とても蒸し暑く太陽がギラギラというイメージをもつが,英国で真夏という と,6月下旬の夏至あたりの非常に快適な時期を指す。“A Midsummer Night’s Dream” といえば,シェイクスピア作の喜劇「真夏の夜の夢」である。なお,このシェイクスピアについては,いずれお話したいと思っている。
3月下旬にケンブリッジに着いたときには,なぜこのような地名がついたのかわからなかったが,夏が近づくにつれてだんだんわかってきた。
まず,5月上旬,“Fun Fair” (移動遊園地) がやってきた。日本では馴染みがない移動遊園地であるが,数日にして Midsummer Common に小規模な遊園地ができあがった。5月になれば,緯度が高い英国では夜8時くらいまでは明るい。たくさんの家族連れで Fun Fair は賑わっていた。
つぎに,6月7日には “Strawberry Fair” と呼ばれる野外コンサートが開かれた。これは約30年間続いているそうで,日本の学園祭を大規模にしたようなものであった。さまざまなタイプのバンドが演 奏し,そのまわりでは屋台が出て,食べ物などを売っていた。そのなかには Japanese foods もあり,焼きそばに天ぷらをトッピングしたものが売られていた。ちょっと油っぽそうで,私は食べる気がしなかったが,結構売れていた。後で聞いたのだが, 観客の中には大麻などの売人もいるらしく,最近,風紀が悪くなっているそうである。
そして,夏至の時期である6月18日から23日まで “Fair and Market” が開かれた。これは5月のFun Fair と比べると,圧倒的に規模が大きかった。たくさんの乗り物やメリーゴーランド,そして大きな観覧車まで登場した。ゲームセンターもいくつもでき た。そのまわりで,いろいろな店が出て市場を作っていた。夏至の時期,英国では夜9時過ぎまで明るく,毎晩,移動遊園地は10時半すぎまで開園していた。 ここで働いている人々は大型のキャンピングカーで移動しており,そこで寝泊りしているようだった。子供たちの学校はどうしているのだろう,冬は何をしてい るのだろう,などと余計なことを考えてしまった。
ヨーロッパの遊園地は,のどかなものだと想像していた。10年前に訪れたコペンハーゲンのチボリ公園 は,とてものどかだったからである。ところが,この移動遊園地は違っていた。毎晩大騒ぎである。Queen の “We will Rock you” が大音響で流れており,日本の遊園地でよく見かける三半規管を非常に刺激する絶叫マシーンのようなものまであった。また,観覧車のスピードがとても速いの である。日本のものだと,遠くから観覧車を見ると,動いているのかどうかわからないが,英国のものは高速で回転している。また,他の乗り物のスピードも速 いように感じられた。
これから秋にかけても Midsummer Common ではいろいろなイベントが行われるようであるが,この原っぱは真夏にもっとも楽しい時期を迎えるので,Midsummer Common と名づけられたのだろう。
Fair and Market が終わったつぎの朝,もう観覧車は跡形もなく撤去されていた。移動遊園地は,またどこか違う土地で興行するのだろう。
6月23日,英国の最もよい季節である Midsummer に,ロンドン郊外でウィンブルドンテニス大会が始まった。