ケンブリッジ大学工学部には “Japanese Lecture Series 2003/4: Technology, Industry and Society” という,工学部で日本語を学んでいる学生のために日本のことを知ってもらうことを目的としたセミナーがある。今年の11月から来年の2月まで,5名の方(4名は日本人で,1人は英国人)が英語で1時間ずつ講演する。最終回には,元英国駐日大使で Churchill College の Master (学寮長)の Sir John Boyd の講演も予定されているのだが,残念ながらそのときはもう私は帰国している。11月6日に第1回目が開かれ,日本の文部科学省の人で,現在英国大使館に勤務されている方の講演があった。私の知り合いも,文部科学省からオーストラリア大使館に3年間出向(これが正しい用語かどうかわからないが)していたが,講演後にお話を伺ったら,この方も同じような立場で英国に滞在されているようだった。
教室には30名程度の学生が集まった。思ったよりたくさんの学生が日本語を勉強しているのだなと,感心した。このときの講演題目は,
“University Reform and Engineering Education” (大学改革と工学教育)
であった。もちろん講師の方は,私のような国立大学の教員を対象に話しているのではなく,日本に興味のあるケンブリッジ大学の学生を対象に日本の大学の現状について,数値データをたくさん交えてわかりやすく講演された。私としては,まさかケンブリッジ大学で国立大学の独立法人化の話を聞くとは思ってもいなかった。
聞いた中で印象に残ったいくつかの数値を紹介しておこう。
1) | 以前述べたが英国では大学進学率50%をめざしているが,現在は42%である。それに対して,日本の大学進学率は50.8%(短大を含む)であり,日本ではすでに50%を突破している。 |
2) | 英国の大学数は170校である。それに対して日本の大学数は686校(国立大学99校,公立大学75校,私立大学512校)である。英国の人口は,日本の約半分の約6000万人なので,その分を考慮しても,日本の方が英国より2倍多い。だから,大学を統合すべきである,という言い方だった。 |
3) | 大学の理工系の学費を比較してみると,英国では,英国およびEU国籍であれば年間1,100ポンド(約22万円)であり,海外からの学生は12,600ポンド(約250万円)である(私がもっているケンブリッジ大学の資料だと9,714ポンドだったが)。日本の場合,国立大学だと2,750ポンド(約55万円)で私立大学だと平均7,000ポンド(約140万円)である。 |
4) | 「21世紀COEプログラム」の採択が多い順に5つ大学を並べると,1位:東大(26件採択),2位:京大(22件),3位:阪大(14件),4位:名大(13件),5位:東北大,慶大(12件)であり,科研費採択件数の多い順に大学を並べていくと,1位:東大,2位:京大,3位:阪大,4位:東北大,5位:名大であり,Top 5はCOE採択とほとんど同じ大学だった。したがって,COEと科研費とは相関が高く,COEの選定は妥当だった,といっているようだった。 |
これ以外にもいろいろと面白いデータを紹介してくれたのだが,私がメモできたのはこれだけだった。
1) に関しては,そうですね,という感じだ。2) は,いろいろな問題を含んでいる難しい問題だ。先日,埼玉大の学長選挙の結果,選ばれた次期学長は,埼玉大と群馬大の統合協議を棚上げする方針を明らかにしたらしい(11月21日付け読売新聞)。特に,県をまたぐ大学合併の場合には,個人の利害ではなく,将来を見据えた大局観をもった考えの下で進めていかないといけない。埼玉大と群馬大が合併して何が嬉しいかという点が明確にならなければいけない。ただ単に合併すると学生定員が多くなるから,というだけでは,どこかの国の銀行の合併と同じだ。私個人は,以前述べたように,これからは 「プロの時代」 だと思っているので,大きな大学よりも小さくても特色のある大学の方が魅力的だと考えている。しかし,これは小さな大学にいる人間のひがみかもしれない。3) に関しては,英国の大学の学費は思ったより安いが,留学生には非常に高い学費が設定されている。
さて,問題は 4) だ。COE とは Center Of Excellence (卓越した拠点,この正しい日本語は何だっただろうか?) の略である。もともと “Top 30” とか当時の文部大臣の名前を取って 「遠山プラン」 とか呼ばれていたのだが,Top 30 という名称に対する非難が多かったため,COE という一般の人にはわけのわからない名称になったものだ。昨年度と今年度の2年間に渡って10分野の選考が行われ,計264件の提案が採択された。COE についてもいろいろな議論があるので,ここでは詳細については述べないが,結局,今回の講演でも COE の Top 5の 大学名が強調されたように思えた(たぶん講演された方はそんな意識は全くもっていなかっただろう)。また,今年7月に採択結果が発表されたときの新聞を見ていても,採択件数の多い大学の順番が表になっていた。
別に順位付けが悪いとは思わない。しかし,データ解析の常套手段である 「データの正規化」 という手法を忘れてはいけない。たとえば,体重が1kg増えた場合,もとの体重が40kgの人と,100kgの人では,増え方の重みが違ってくる。当然,40kgの人の方が相対的に,体重が増えたと考えてよいだろう。すなわち,1/40と1/100では,1/40の方が大きいと考える。これがデータの正規化である。この場合には,自分の体重で増えたデータを正規化している。
COE の例でいえば,大学の学生数,あるいは教員数(スタッフ数),あるいはその大学の総予算など,何らかの量で採択された件数を正規化しなければ,定量的な真っ当なデータの比較にはならない。でも,まあそんなに目くじら立てることでもないという気持ちも,一方ではもっている。
ある日,工学部長の Keith Glover から,日本の JSPS (日本学術振興会)からケンブリッジ大学工学部で COE に関連して何かセミナーを開いてほしいという内容の書類が届いたので,見てみますか? と言われた。そこで,その書類を見せてもらうために工学部長室に行った。セミナー開催の趣旨や依頼状とともに,COE に採択された工学系のプロジェクトについて,1件につきA4用紙1枚にまとまったものが(もちろん英文で書かれていた),多数同封されていた。まさか,ケンブリッジ大学に来てまで COE の申請書を見るとは,という感じだった。
さて,英国でも Top 100 のような順位付けをする TV番組がときどき放送される。ある晩,放送された番組は,英国のシングルヒットチャートで No.1 をとった曲の Top 100 を選ぶという番組だった。司会はコメディアンの Graham Norton (グレアム・ノートン:アイルランド出身の40歳のコメディアン。毎晩10時から “V Graham Norton” というバラエティ番組をチャンネル4で生放送している。たとえはよくないかもしれないが,英国の「タモリ」のような存在。先日,アメリカのテレビ局と契約を結び,来年からアメリカでの活動も予定されている。個人的には,日本のコメディアンの小堺一輝はグレアム・ノートンの影響をかなり受けていると思っている。)で,4時間にも及ぶスペシャル番組だった。100曲のうち,2/3以上は知っている曲で,とても懐かしく楽しく見た。中でも,ケイト・ブッシュのビデオクリップ(曲名を忘れてしまったが,明石家さんまの土曜夜11時の「恋のからさわぎ」のテーマ曲)が印象的だった。ついでに,この番組の Top 5 を書いておこう。
5位:見つめていたい(ポリス) 4位:ダンシングクイーン(アバ) 3位:ヘイジュード(ビートルズ) 2位:ボヘミアンラプソディー(クイーン) 1位:イマジン(ジョンレノン) |
どのような定量的な基準でこのランキングが行われたのか全く理解できなかったが,私にとってこちらは納得の Top 5 だった。