オーストラリアで開かれていたラグビー第5回ワールドカップ決勝が11月22日シドニーで行われ,延長戦の末,イングランドが20対17で前回王者のオーストラリアを破り,念願の初優勝を果たした。この試合では,SO (スタンドオフ)の Jonny Wilkinson (24歳)が延長戦終了間際に,利き足ではない右足でドロップゴールを決め,劇的な勝利を収めた。Jonny はフットボールのベッカムと一緒に CM に出ていることでも有名で,私もその CM を何度か見たことがあった。また,ペナルティキックを蹴るとき,独特のポーズをとることでも有名で,息子の小学校では,そのポーズがはやっているそうだ。この試合は,英国では土曜日の朝9時くらいから生中継されていた。ちょうどその時間,娘は近所のバレエ教室に通っていたのだが,家内の話だと,事務のおばちゃんもラジオのイヤホンをつけていたそうだ。きっとラグビーの中継を聞いていたのだろう。新聞によると,英国総人口の1/4近い約1400万人がこの決勝戦をテレビの生中継で観戦(日本ではこのようなときは,最近悪名高い視聴率で数値化されるだろう),英国パブ協会によると,このうちの500万人がパブでビールを飲みながら応援していたという。また決勝戦の間は,車の通行量が普段の60%も減少したそうだ。
さて,上の写真は翌日の新聞 “THE SUNDAY TIMES” に載っていたものである。イングランドを応援する女性がイングランド国旗の上に,“BBQ THAT !” と書いた紙をもって,それをオーストラリア応援団に見せている。私は英国に来てはじめて “BBQ” という略語の意味を知った。 Barbecue (バーベキュー)のことなのである。日本でもアウトドア派の人には常識かもしれないが,私はどちらかというとインドア派(というよりは出不精)なので聞いたことがなかった。英語を訳すと,「(オーストラリアなんか)バーベキューにして食べてしまえ!」となるのだろう(この訳も私が考えただけなので,間違っているかもしれない)。
英国人は BBQ が大好きだ。最初は,日本の東北地方の「芋煮会」のように季節限定の行事かと思っていたら,そうでもなく初夏から初秋までの気候の良い時期には,近所の芝生で BBQ 大会をよく開く。また,ケンブリッジには BBQ を開くのに便利な芝生がたくさんある。季節と言えば,英国には日本のような鮮やかな四季の移り変わりはなく,夏でも寒い日があれば,春でも暑い日がある。また,一日の中でも天候がコロコロ変わる。有名なロンドンの天気予報は,「晴れのち曇り,ところによりにわか雨」だ。また,「英国では一日の中に四季がある」と言った人がいるが,まさにそのとおりだと思う。
BBQ シーズンにスーパーに行けば BBQ 用品が多数売られ,BBQ 用の焼くだけの食料品もたくさん並んでいる。われわれも6月に行われた町内主催の BBQ を皮切りに,7月にはケンブリッジ日本人会の BBQ,そして10月にはケンブリッジ大学制御グループの BBQ に参加した。
BBQ は英国人にとても向いている。出来合いの食材をただ焼くだけでよいからであり,日本のホームパーティーのように料理の準備に多大の時間をかけない。その代わり,徹底的に会話を楽しむ。日本の場合,同じ会社とかご近所の主婦同士とか,似た環境の人同士で会話をする機会は非常に多いが,異なる世代とか異なる背景の人が会話をする機会が極端に少ない。また,そのような機会があった場合,特に男性(もちろん私も含まれる)は,とたんに話す内容に困ってしまう。
話は飛んでしまうが,e-mail で会話が成立するためには,実際に相手と会って相手のことがよくわかっていることが前提であると私は信じている。少なくとも私は,会ってもいない人と馴れ馴れしい本音の会話を e-mail ではできない。したがって,会ったこともない人から e-mail で何か仕事(たとえば,講演とか原稿執筆)を頼まれると,まずは相手を疑うことにしている。その人と一度会ってから,その仕事を引き受けるかどうか決めたいと思っている。このようなことを言っているようでは,たぶん私は遅れているのだろう。
e-mail 文化を作ってきた人は,e-mail のない時代を過ごしてきたので,実際に会って会話しているという前提の下で,e-mail を使うことを暗黙のうちに想定してきたのだと思う。しかし,現在 e-mail 文化を享受している人は,一度も会ったことのない人とでも平気で e-mail を使ってチャット (chat) している。文化を作ってきた人とそれを享受している人との間には,かなりのギャップがある。
私はいま英国に滞在しているので英語でのコミュニケーションについて考える機会が多いが,英語でのコミュニケーション以前に,人間同士のコミュニケーションを真剣に考えないと,日本は誤った方向に進んでいくような気がしてならない。