足立研レギュラーメンバーの一人である管野政明准教授(新潟大学)からケンブリッジだよりが届きました。
 
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新潟大学の管野です.

9 月後半に,Malcolm C. Smith 教授との研究打ち合わせ及び 5th CFES Workshop: Mathematical Aspects of Network Synthesis (Joint event with 2nd Workshop on Mathematics of Network Synthesis) に参加,現在の研究の動向調査のため,久しぶりにケンブリッジ訪問しましたので,報告いたします.

研究打ち合わせでは,双方の最近の研究内容について説明したり,また,特に Malcolm が行っている Network Synthesis の研究に関し,私が行っている代数的手法によって新たな知見が得られるか,その可能性を探るなど行いました.

上述の Workshop のタイトルにある Network Synthesis の Network とは,近年のインターネットなどのようなコンピュータネットワークではなく,電気回路網のことで,1960 代まで盛んに研究されてきましたが,その後,計算機の発展の影響のためか,それほど注目を集めることはなかったようです.Malcolm 及びその PhD の学生,ポスドクらのグループは,60 年代以降発展したシステム理論を用い,また,複雑な式の導出を計算ミスなく行ってくれる数式処理システムを活用し,既存の結果に新たな解釈を与えたり,精緻化するのみならず,回路網の分野で今まで見えてこなかった新たな知見を得たり,新たな概念を提案するなど,近年積極的に研究を行っています.

このような研究の流れの源となったものは,車のサスペンションシステムに関する研究であり,さらに Malcolm の考案した Inerter です.(近年の F1 のサスペンションには Inerter 及び Inerter のようなものが大抵使われているらしい) . Inerter の考案により,機械ネットワークと電気ネットワークのアナロジーが完全なものとなり,電気回路網で培われた知見がサスペンションシステムなどの機械回路網の設計にも適用できるようになりました.すると,例えば 2 次の多項式の比で表される伝達関数をもつ受動的システムを機械ネットワークで実現するにはどの程度複雑なシステムが必要か,というような問いが自然と出てきます.実はこの単純そうな問題に対しても明確な答えはまだなく,それが Malcolm らのグループをこの研究に駆り立てているようです.

Malcolm がこの方面の問題を再発掘した前後に,偶然にも同じような研究を開始(ないし再開)した研究者がいます(何人かは Malcolm に直接・間接刺激を受けている人もいるとは思いますが).その一人に,カルマン・フィルタで有名な Rudolf E. Kalman 教授がいらっしゃいます.そのような研究者が賛同し,上記の Workshop が開かれました.最初の講演は,Kalman 教授による特別講演で,ときどき息が切れている感じもありましたが,全体を俯瞰しながらも,こんなことが良く分かっていないので今研究している,という話も含んだ,ご高齢とは思えぬ熱のこもった講演でした.その他,Jan C. Willems 教授,Patrick Dewilde 教授,Paolo Rapisarda 博士,Malcolm 及びそのポスドク,学生らの講演がありました.レベルが高く,中身についていけないものが多かったですが,どれも熱意のこもった興味深い講演でした.

余談ですが,Network Synthesis の分野のバイブルと称されるものに,Ernst S. Guillemin 教授著の Synthesis of Passive Networks という本があります.Guillemin 教授は MIT の教授で,Kalman 教授はこの先生の Network Synthesis の講義で A (優)を取られた,というエピソードも特別講演の略歴紹介の中で披露されました.ちなみに,Keith Glover 教授が MIT で学んでいたころには,Guillemin 教授はすでに引退されていて,教授引退と同時に Network Synthesis の講義もなくなり,残念ながら受けられなかった,その代わりに Jan C. Willems 教授の現代制御の講義を取った,などという話も立ち話の際に聞くことができました.
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ケンブリッジ大学の Malcolm C. Smith 教授は,来年1月上旬に来日予定で,タイミングがうまく合えば,足立研セミナーでご講演していただく予定です。