この1か月は足立研学生の卒業論文(B4),課題研究(M1),修士論文(M2),博士論文(D3)の計15編以上の論文やレジュメを毎日読んでいる。
そのなかで,ちょっと気になったのは,「手法」という言い方だ。
たとえば,私は,「システム同定法」(system identification method)という言い方をし,「システム同定手法」(system identification technique)とは決して言わない。
すなわち,「手法」という用語は使わず,「方法」という用語を使っている。
そのため,「手法」といういい方には違和感を覚えてしまう。
なぜだろうと思って,広辞苑や他の辞書を引いてみたら,つぎのように書いてあった。
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手法:物を作ったり事を行ったりする際のやり方。特に,芸術作品の表現方法。
「浮世絵の手法を取り入れる」
方法:しかた,てだて,目的を達するための手段。または,そのための計画的措置。
認識目的を果たすための思考活動のよるべき方式。
学問研究における思考対象の取扱い方。
哲学で,真理に到達するための考えの進め方。
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果たして私が感じていた通り,「手法」は芸術的(art)な表現であり,「方法」は科学的(哲学的),工学的(engineering)な表現の意味があったようだ。どちらがえらいというのではない。使う場所によって使用する用語が違うのだ。
もちろん現代では「手法」と「方法」を同じように扱っている分野や人が多いようなので,この区別は厳密なものではないだろう。
しかし,足立研では,だれがやっても同じ結果が出る,すなわち再現性のある工学をめざしている。アートな部分(試行錯誤の部分)をできるだけ減らそうとすることが工学の目的の一つだからである。
そのため,足立研学生には論文の中では「手法」ではなく,「方法」を使ってくださいとお願いした。
# デカルトの「方法序説」(原題は,「理性を正しく導き、もろもろの知識の中に真理を探究するための方法序説」)を,理解できなくてよいから,若いときに読んでおいてほしい。
コメント
techniqueとmethodの違いを探していて貴ページに至りました。スレッドの前後を把握せずのコメントご容赦ください。methodは体系化された方法論で,techniqueはより狭い範囲の「コツ」のような感じを受けます。「システム同定」は方法ですが,その中に「速く収束させるコツ」「誤差を少なくするコツ」「変動に追従させるコツ」などのtechniquesがある気がします。算数で,「分数は分母と分子を先に計算しておいてから割り算する」というようなコツもtechniqueだと思います。「システム同定」がより大きな目的(たとえば未知の時変システムの制御など)のもとでの一つの技術解であるとき,それはtechniqueかと思います。いかがでしょうか?
2017年02月15日 7:42 PM | 大澤千春