DSC04345 (751x1024)廣田幸嗣氏からエッセイ[24] を送っていただきました。

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1882 年テスラ Nicola Tesla は、2相交流により交流モータの回転磁界を作る原理を考案する。2相交流は,正弦波 sin ωt と、それに直交する(90°位相が異なる)余弦波 cos ωt からなる相数 N=2 の多相交流で,直交する2組のコイルに2相交流の電流を流すと,回転磁界を作ることができる。

2相交流の優位性を主張したテスラは、直流派のエジソンとは生涯不仲であった。無線通信の実験をやったマルコーニがノーベル賞をもらったのに、彼より輝かしい業績を残した二人がノーベル賞を逃したのは、お互いに足を引っ張ったからだとの俗説もある。

テスラはナイアガラの滝発電所に2相交流の発電機を設置した。2相交流では送電するのに電線が3本必要であるが,同じ本数ならば3相交流の方が送電効率が高いことがすぐに分かり3相になった。古い2相交流発電機を3相の送電網に接続するために,2相 ⇔ 3相相互変換のための変圧器が考案された。これが多相交流における「相変換」の事始めである。

現在は,一部の直流送電区間を除けば,発電も送電も3相交流で,家庭や工場への配電網も途中まで3相交流である。家庭用には柱上変圧器で降圧して,3相3線のうちの2本を単相として配電する。これは、3相 ⇒ 単相変換である。

新幹線のような消費電力が大きい単相需要家に,家庭用のようなやり方で単相交流を配電すると,3相間のバランスが崩れて系統が不安定になる。そこで3相⇔2相変換の変圧器を入れ,架線と線路の間に、上りと下りで 90° 位相の異なる単相交流を供給している。

3相交流の電力回路を計算するときに,同一の回転磁界を発生させる2相交流にいったん変換すると,相数が減るので計算が楽になる。これを考案したのが,アメリカのクラーク女史 Edith Clarke である。

彼女は 1919 年に、Computer(計算職?)という奇妙な肩書で GE に採用される。その当時のアメリカでは,女性は技術に不向きであるとの偏見があり,Engineer としては採用されなかったのである。

電力回路計算で優れた業績を残し,幾つかの著名な論文も書いている。その中の一つに3相交流モータの制御では必ず使われる(EV でも使われる),上述の 3相 ⇔ 2相変換による計算法があり,現在はクラーク変換と呼ばれている。

彼女は実績を積みながら,徐々にエンジニアとしての地位を築いてゆく。女性の地位向上が叫ばれているが、制度設計と並んで偏見に立ち向かう女性の存在が大きい。Clarke 女史は,いまでも世界中の電気工学者から尊敬されている。

Clarke