DSC02129 (768x1024)廣田幸嗣氏からエッセイ[28] を送っていただきました。

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1970 年頃までの長距離通信は,センチメートル波(俗称マイクロ波)の無線通信が担っていた。通信量の増加により波長が一桁短いミリ波が次世代技術として注目され,日本は開発で世界をリードしていた。ようやく実用化の目途が立った時に,新世代の光ファイバ通信が登場して,蓄積したミリ波通信技術はアッという間にムダになった。学生時代にミリ波研究の末端にいたため,「次世代」の崩壊を目撃できたのは幸いであった。

第二次大戦を振り返ると,英国の巨大戦艦ドレッドノートを超えようと,超弩(ド)級戦艦大和が建造された。しかし,配備されたときには航空母艦の「新世代」になっていた。

1982 年に IBM の第4世代コンピュータを越えようと,第5世代コンピュータの国プロがスタートした。日本独自技術を確立できるとあって,話題になった。しかし国プロ終了したときには,すでにダウンサイジング,つまりメインフレームからパソコンの新時代になっていた。大型コンピュータは,いまも第4世代のままである。

ほぼ同じ時期に日本の半導体産業は,世界トップの地位を誇っていた。NHK スペシャルでは「電子立国日本」が放映され,日本中が強みを確信した。その強みの根源を探ろうと,アメリカ政府は二人の調査官を日本に派遣した。しかし分析して分かったのは,日本の強みではなく半導体産業などのハイテク産業に共通する弱み,Tunnel Vision(視野狭窄症,直線思考)であった。実際に,日本の半導体産業もコンピュータ産業も,指摘された通りに急速に勢いを失っていった。

直線思考だと周囲が目に入らない。携帯電話でも 1G → 2G → 3G と次だけを見ていたら,横から新世代商品のスマホが現われて,足元をすくわれた。ネットで検索すると,「次世代」の付く国プロが沢山ある。従来の延長で考えていないのか?少々不安になる。

もちろん次世代がすべて悪いわけではない。たとえば,ボーイング 737 は次世代戦略の教科書ともいえる存在で,すべての世代でベストセラーの座を保持している。搭乗機が 737NG であっても,慌てて降りる必要はない。NG は Next Generation の略である。

反対に,新世代であっても直線思考の企画のときは要注意である。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を,僅か2年で見直したエネルギー行政が,いま水素社会を唱えている。マスメディアの多くは,水素社会を日本がリードすると無批判に報道しているが,大丈夫だろうか?アルミや亜鉛,マグネシウム,蓄電,蓄熱などをエネルギー貯蔵源のコアとする考えもある筈だ。

2020 年代の高速鉄道は,欧州と中国が時速 400 ㎞ での運行で先行し, 遅れて JR 東日本の次世代新幹線も追随する見通しのなかで,時速 500㎞ の新世代,リニア建設がスタートした。時速で 100㎞ 速いリニアと,相互乗り入れできる新幹線のどちらが良いか?

究極の・・とか,世界をリードする・・と言う殺し文句があると途端に,日本全体が思考停止に陥る性癖がないのか? 私は水素社会もリニアも絶対反対ではないが,直線思考に陥らないために,疑問をもって論議することが必要だと思っている。ちなみに,広辞苑で「学問」を見ると「学び習うこと」と書いてある。これでは学習と同じである。学問とは,学び問い,問い学ぶことである。

B2C の開発を考えると,最近は日本企業のマーケティング能力の不足が指摘される。会社の中にいると専門部署からの市場分析や,調査会社の市場予測レポートなのど,多くの情報に溢れているが,所詮は加工を経た情報で,狭いトンネルを通してマーケットを見ているのと同じである。自分の五感と第六感を信じ,直接マーケットに触れる必要がある。情報伝達の長いトンネルを抜けると,そこは・・・