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ユーザのためのシステム同定理論」は,1993年,私が35歳のとき初めて執筆した記念すべき著書です。

計測自動制御学会創立30周年記念著述賞に応募し,運よく一等賞を受賞しました。当時はバブルの時代で,賞状だけでなく,賞金までいただきました。この受賞のおかげで,計測自動制御学会の出版委員会からこの本を出版していただきました。

この本が世に出て,制御分野の研究者や技術者の中に,私の名前を憶えてくれる人が少しずつですが出てきました。30代半ばにして,ようやく制御の世界でご飯が食べられるかなと,少し自信がついた記念碑的な著書です。

内容が専門的で,とても採算の取れる本ではなかったので,ISBN 番号がついていない,学会のカタログ扱いの著書でした(計測自動制御学会カタログ番号 93BK003)。その後,コロナ社に販売していただきましたが,最初に刷った 1500 部がなくなった段階で絶版になりました。いまでは amazon で手に入れることもできません。私の手元にも数冊しか残っていません。

いまだに必要があって読み返しますが,システム同定の細部にこだわったマニアックな本です。自分で言うのは変ですが,よい本です(自分に対する評価はかなり甘いほうです)。

前半の3章は,システム同定の基本理論について書かれており,それらの内容は「MATLABによる制御のためのシステム同定」(東京電機大学出版局,1996),「システム同定の基礎」(東京電機大学出版局,2009)に発展しました。

後半の3章は当時(1990年代初頭)の最先端の理論を紹介しており,つぎのような目次です。

 4章 数値的な側面からみたシステム同定
  4.2 数値的に安定なシステム同定法 ・・・ たとえば,UD分解法,正則化法
  4.3 離散時間同定モデルのパラメトリゼーション
     デルタオペレータモデル
     ラゲールモデル
     周波数サンプリングフィルタ
 5章 ロバスト制御のためのシステム同定法
     特異値分解法
     平衡実現に基づく低次元化法
     セットメンバーシップ同定法
 6章 システム同定におけるトピックス
     閉ループシステムの同定 ・・・ 既約分解に基づく同定法
     不安定システムの同定
     非線形システムの同定

よくもいろいろなトピックスを詰め込んだなという印象ですが,いま読んでも古くない内容で,自分自身,勉強になります。

後半の3章の一部は,「MATLABによる制御のための上級システム同定」(東京電機大学出版局,2004)に発展しましたが,この本は内容が難しく,価格が4000円以上もしたため,まったく売れず,出版社にご迷惑をおかけしました。現在は絶版になっているようです。

「ユーザのためのシステム同定理論」も絶版なので,ほとんどの人(特に,システム同定を勉強する学生)は手にとることができません。もともとカタログ扱いなのですから,pdf 化して誰でもダウンロードできるようにしてもよいなと思います。ただ,著作権は計測自動制御学会が持っていて,私のものではなさそうなので,私には何もできないのでしょう。