Pembroke library廣田幸嗣氏からエッセイ[12] を送っていただきました。

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電磁波の存在は、1864 年に Maxwell が理論的に予言し,1888 年に Hertz により実証された。1897 年に Marconi は,無線電信の実用実験に成功する。これは良く知られた事実であるが、Tesla は 1893 年に無線通信の回路を公開していて, Marconi はこの回路を使って実験している注)。またアメリカの医師 Loomis は,電波が実証される前の 1872 年に無線電信に関するアイデア特許を取得している。電磁波が認知されて以来,発明立国アメリカが無線通信技術を主導してきた。

注) Tesla は他に交流発電機や誘導モータも発明している。同時代の Edison と並ぶ偉大な発明家であるが日本では業績を知る人が少ない。

移動通信の普及とアプリの急増により,電波資源の枯渇が問題になっている。通信サービス各社が,周波数割り当てを競い,有限な電波資源を最大限有効活用する技術開発が続いている。 LTE :Long Term Evolution で採用されている電波資源有効活用の技術を見てみよう。

まずは高効率の変調方式である。アナログのラジオ放送で使われる振幅変調 AM や周波数変調FM(位相変調 PM の一種)は電波の利用効率が低い。デジタル通信では AM と PM を組み合わせた直角位相振幅変調を使う。LTE で採用した 64QAM では,1回の変調で6ビットのデータを伝送できる。前世代の 3G では,最大で4ビット伝送の 16QAM である。

つぎに通信方式がある。LTE で採用された直交周波数分割多元接続では,周波数資源を周波数軸と時間軸の両方で分割する。ユーザには動的に細分した資源を割り当て,通話が中断するとリアルタイムで解除も行う。3G では,電波資源をユーザに独占的,固定的に割り当てて,周波数資源が無駄遣いされていた。

三つ目は,空間分割多重伝送 Space Division Multiplexing の採用である。無線通信では,視界内 LOS:Line Of Sight の直接波だけでなく,大地や建物で電波が反射して,複数の経路multi-pathができる。これが相互干渉すると,受信波が激しく変動して品質が落ちる(multi-path phasing 障害)。

LTE では,この厄介者を逆用する。つまり,マルチパスがあるときに相互干渉を除去できれば,経路の数だけ独立したチャンネルが確保できる筈だという逆転の発想である。

具体的には,M 個の送信アンテナから M 個の異なる情報を,同じ周波数の電波で送る。これをN個のアンテナで受信し(N≧M),行列演算により元の M 個の情報に復元する。送受側で複数のアンテナを使うので,マイモウ MIMO:Multiple Input Multiple Output と呼ぶ。LTE 規格では N は最大 4 であるが,LTE-Advanced では、空間多重数が最大 8 になる。

こうして同一周波数を同一エリアで,混信しないで共用できることになる。LTE では電波環境が悪いときは,空間多重を止めたり,変調を 16QAM 以下に下げたりして,効率より安定性を重視した通信に柔軟に切り替えている。

結線が不要な無線通信の需要は,今後も爆発的に増大すると予測されている。無線通信は電波の届くエリアに居る人間だけでなく,センサやカメラからの膨大なデータも取り込むことになる。こうした需要に応えるために,無線通信技術は今後も奇抜なアイデアを生みながら,進化を続けるだろう。