中止になった MSCS2020 の会期中に,「学生のための和文論文執筆のすゝめ」という題目で,30分講演する予定でした。
英文論文でなければ論文ではない,というのが現代の研究者の常識ですが,その時代にあえて和文論文を執筆する重要性を,学生や若手研究者のみなさんにお話するつもりでした。私はこの講演を非常に楽しみにしていて,スライドの準備を進めていました。
その講演の序盤で,江戸川乱歩の「怪人二十面相」の書き出しの部分を引用する予定でした。
そのころ,東京中の町という町,家という家では,ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば,まるでお天気のあいさつでもするように,怪人「二十面相」のうわさをしていました。
当時,東京の町には怪人二十面相という不気味な悪者がいたという情景が目に浮かぶ,素晴らしい書き出しです。しかし,このような文学的な表現を理系の和文論文で書いてはいけませんよ,ということがこの文章を引用した目的でした。
しかし,
そのころ,日本中の町という町,家という家では,ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば,まるでお天気のあいさつでもするように,「コロナウィルス」のうわさをしていました。
が,まさに現実になっています。
この文章が,できるだけ早く過去形になることを祈り,それと同時に,「学生のための和文論文執筆のすゝめ」をどこか別の機会で講演させてほしいな,と思っています。