足立研では二つの cell の研究を行っています。

ひとつは生物における「細胞」 (cell) についてで,もう一つは「電池」 (cell) についての研究です。

前者に関しては,近年,生物学をシステム的に研究するシステムバイオロジーという分野が開拓され,活発に研究されています。足立研では,システム同定理論などの制御理論を細胞 (cell) に適用することに興味を持っています。特に,cell cycle (細胞周期) と呼ばれる,細胞が分裂後につぎの分裂期までにたどるサイクルについて研究しています。

後者については,充電可能な二次電池(たとえば,リチウムイオン電池)の充電率 (State Of Charge : SOC) や健全度 (State Of Health : SOH) などといった状態量を,測定可能な電池の電圧や電流などを用いて推定する方法について研究しています。二次電池はハイブリッド自動車,電気自動車,あるいはパソコン,デジカメなどさまざまな電化製品で必要なものですが,smart grid (計算機を用いて制御可能な電力網)においても重要な構成要素になるでしょう。電池 (cell) に対するシステム制御的なアプローチは非常に重要だと考えています。

生物における cell (細胞) と電気化学における cell (電池) は全く関係のないものですが,制御の視点から見ると,両者ともダイナミクス(動力学,動特性)をもった対象です。そのため,潤沢なシステム同定理論,状態推定理論,制御理論の成果を適用できる可能性があります。これが制御理論のすごいところです。

先日読んだ,デニス・ブレイ(ケンブリッジ大学名誉教授)著:「ウェットウェア — 単細胞は生きたコンピューターである 」という翻訳本の中で,

細胞が過去の出来事を記憶したがるのはなぜだろうか? 懐古の念からだろうか? いやそうではない。細胞は過去を使って未来を読むことができる。次に何が起こるかをうっすらでも知ることができるのだ。

という一節がありました。これは,まさしく細胞(生物)がダイナミックモデルを持っていて,それを用いて未来を予測できることを記述したものです。