『見て楽しむ量子物理学の世界』(A Guide for the perplexed),カリーリ著,村田訳)という本は,初心者向けのイラスト満載のとてもきれいな量子力学の入門書です。この本の題名を直訳すると『(量子力学の理解に)途方にくれた人のためのガイド』になるでしょう。
 その中にマクファデン教授(サリー大学微生物学)の「量子力学と生物学」という文章が載っており,「シュレディンガーが,生命は量子力学的な法則に基づいているという驚くべき提案をしてから50年以上経ちました」と書いてありました(pp.297-299)。もう少し詳しく述べると,「古典的法則はすべて統計的なものであり,何十億個もの原子や分子の集団に対しては正しいが,一個一個の粒子のレベルには成り立たない。生命は,一個一個の粒子の力学に基づいていてそのために量子の法則にしたがう」ということになります。シュレディンガーは「生命とは何か ― 物理的にみた生細胞」という本を書いているように,物理学と生命の関係についても深く研究した人でした。
 私には奥深いことはまだまだ理解できませんが,生命と量子力学の間に,システムバイオロジーや制御,そしてシステム同定などの考えが強く関係しているのではないかとぼんやりと考えています。量子力学やシステムバイオロジーの研究において,制御理論の考え方が生かせる分野が数多くあり,さまざまな研究者がさまざまなアプローチで研究を進めています。このとき,おそらく最も重要なキーワードは「確率」になるのではないかと私は考えています。